mainichiwayang’s diary

ジャワでダランとガムラン修行中の大学院生です:)

実技試験を終えて

今回は別の記事を書く予定だったのですが、こちらを先に書きますね。

1月16日(水)にダラン科の実技試験を受けてきました。わたしは留学生なので、学位や単位は関係なく、本来ならば試験も特にないのですが、

「Kamu juga harus ikut ujian !(君も試験を受けなさい)」

というワヤンの先生のお言葉で、わたしも試験を受けることに。ひょええと思いつつも、以前の記事に少し書いたように、先生のご配慮をとても嬉しく思いました。

 

わたしが主に授業に出ているsemester1 のクラスの課題は、台本の一場面(一人当たり40分程度)を上演するというものでした。他の学生さんたちはくじ引きだったようですが、わたしは先生と相談した結果、いちばん最初の場面(ヌムの場面、pasebanjawiからperang ampyakまで)を上演することになりました。

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ダラン科の試験の様子。先生方は演奏をしつつ採点をしている。

 

しかし、これが決まったのは12月も半ばを過ぎ、試験まで1ヶ月ないというような時期でした。わたし自身、半分くらいは全然やったことがない場面だったのに。

でも、わたしに試験を受けないという選択肢はもちろんなく、先生の

「これから教えるから大丈夫!」

という一言で、12月末から怒濤のレッスンが始まったのでした。試験って結構大事なことなのに、短期間で間に合わせてしまおうと思うあたり、日本人とジャワの人との間で違いがあるなと感じました。しかし、先生は本当に丁寧なので今回も時間を割いて丁寧に教えてくださいました。レッスン時間が終わっても、ご自宅のクリル(幕)と人形を貸してくださって、夜まで練習できたこともありがたかったです。

 

今回は、ワヤンのレッスンを始めた頃に習った「ブダランbudhalan(出陣の場面)」と「プラン・アンピャperang ampyak(グヌンガンという人形と兵士たちの戦い)」をベースに「アスティノAstina王国での会議の場面」と「兵士が馬に乗る場面」を新たに加えるというかたちでレッスンが進んで行きました。先ほど「半分くらい」と書いたのは、少し習っていた部分もあったからです。ですが、習い始めた当初は音楽との関係が分からないままとりあえず動きをひたすらという感じだったので、結局、一から復習していくことになりました。その分、以前より拍感や太鼓の手組みと動きの関わり、足や手で合図を出すタイミングなど、きちんと理解できるようになってきたので、そこは成長したかなと思います。

 

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アスウォトモAswatama(兵士)と馬

 

 

「兵士が馬に乗る場面」では馬と兵士の人形を二つ右手に同時に持ち、乗馬独特の揺れるような動きを表現します。なおかつ左手にはたくさんの兵士たちを表すランポガンlampoganという人形を持たなければならず、技術的にとても難しい場面です。最初難しいから無理だと言われて習えなかったのですが、今回挑戦することができたのはとても嬉しかったです。実際やってみると、結構人形が重い上、ずっと揺らしていなければいけないので、右手も左手も痛くなって大変でした。

 

 

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実際の馬とランポガンのシーン。手前の四角いたたみイワシみたいなのがランポガン。

 

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ランポガン。兵士がたくさん。


個人的には「アスティノ王国での会議の場面」が、今回自分にとっていちばん挑戦が多かった部分です。ここは、宰相スンクニsungkeniが臣下たちを集めて会議をする場面なのですが、ここでは扱う人形がとても多いので、それによっって色々な困難が生まれるのです。

まず人形をスムーズかつきれいに並べるのが難しい。きれいに人形をバナナの幹に刺せないとあとあと倒れたり、人形同士の手が引っかかったりしてしまいます。登場するタイミングも、ガムランの拍に合わせなければならないので、準備が遅れると、間延びしてしまってかっこ悪い。

何より大変だと感じたのは「登場人物の声を演じ分ける」ということでした。会議なので、それぞれの人形がしばらく会話をします。キャラクターごとに、それにふさわしい声色というものが決まっているので、今回は7人のキャラクターの声を演じ分けなければなりませんでした。しかも、みんな男のキャラクターなので、男っぽさに加えて7人分の異なる声を出すのは、女性のわたしにとってはなかなか大変なことでした。このあたりは、やはりダランは本来男性がやる芸能なのだなと感じます。ジャワ語の独特のイントネーションというか、ダランの語りらしい抑揚の付け方に慣れるのも、難しかったです。

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人形が画面上に並ぶとこんな感じ。

というわけで、当初は台本は暗記でという予定でしたが、色々な困難が立ちはだかり、やってみたらとても無理だということが判明したので、今回は台本を読みつつ試験を受けることが許可されました。

 

そういえば、隣の部屋に住んでいる子に「あなたの部屋から何か声がして怖いんだけど…?」と言われてしまうくらいには、力を入れて練習していました…笑(ごめんね。)(試験だから練習していると説明したらわかってもらえました。)

 

本番、時折笑いが起きていたので、多分ジャワ語でおかしいところがあったのかもしれません。まだまだ研究が必要です。道のりは長いです。練習をしてよかったことは、ワヤンに行って、以前よりもジャワ語の単語が聞こえてくるようになったことです。あ、これ、台本に載ってた単語だなあ…と。

 

年が明けてからは大学の部屋と人形を借りて毎日個人練習をしていたのですが、鍵を開けてもらう時に、守衛さんに必ず

「一人かい…?」

 と聞かれました。時間がある時は先生も見にいらしたのですが、ほぼほぼ一人だったので、そうですと答えると、いたく感心されました。

こちらの人は何かを一人ですることをあまり好まないようで、たいていは「みんなで一緒に、協力して」やるのが普通なのだそうです。わたしは黙々と練習するのが結構好きなんですけどね。

 

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ダラン科職員室の奥の、この部屋に行くと、人形や部屋を借りることができる。

 

本番は、大きな事故もなく終えることができたのですが、次回課題となるのは「合図を出すこと」かなと思いました。曲のテンポを速くしたい時に、自分では合図を出しているつもりだったのに、うまく伝わらず、速くならなかったり、逆に勘違いされて楽隊が先に行ってしまったりという小さな事故はあったので。これは場数を踏んで慣れていくしかないなと思います。

 

非公開の試験なのにサングルsanggulという付け髪をし、ジャワの正装が必須と言われたので、早起きして頑張りました。でも、この格好できるのを心待ちにしてしまうくらいにはとても好きなので、今回も楽しかったです。しかし、付けまつ毛すると目が開かない…(メイクをお願いしたibuに、もっと目を開けなさいと言われた…笑)

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うふ。

 

今回というか、最近よかったなと思うのは、少しずつダラン科の人たちとの距離が近くなってきたなと感じることです。

毎日練習に行ったおかげか、守衛さんにも認識してもらえるようになったし、部屋の予約をする時にお世話になるおじさんとは世間話できるようになったし、同じクラスの子たちもわたしの試験のことを心配して声をかけてくれたり、本番後は一緒に写真を撮ってくれたりしました。小さなことですが、そういう瞬間がたまらなく嬉しいです。ふとした時に手を貸してくれる人がたくさんいるので、ジャワの人はあたたかいなと思います。まだ時間はあるので、語学力を上げつつ、ジャワの人ともっともっと色々な話ができたらいいなと思います。できるように頑張ります。

 

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Terima kasih, teman-teman semua!!!

 

なぜか本番にワヤンの先生が観にいらっしゃれなかったことが少し残念なのですが、試験のあと写真とお礼のメールを送ったら

「君はできるし能力もあるから、頑張り続けるのだよ。」

というお返事が来ました。ジャワ人の学生を見ていると、自分が能力があるとは到底思えませんが、こうして励ましてくださる先生の存在やジャワの人たちのあたたかさに感謝しながら、先生のお言葉通り、精一杯頑張り続けたいです。

 

 

長くなりましたが、今回も読んでくださってありがとうございます!

また近いうちに書きますね。

Terima kasih :)